複雑な課題にアプローチする力とはなにか 【2】

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NPO法人プラットフォームあおもり 米田大吉理事長に聞く
高島克史

米田 大吉

NPO法人プラットフォームあおもり 理事長

専 門 人材育成・採用・定着などのコンサルティング
キャリア支援プログラムの作成・開発・運営など
その他現職 経済産業省 地域人材育成コーディネーター
農林水産省 6次産業化プランナー(青森県担当)
青森市あおもり産品販売促進アドバイザー など

複雑な課題にアプローチする力(課題解決能力)【ルーブリックより】

  • 自らの知識やスキルを活かして、複雑な課題を多角的に分析できる

4.地域志向教育の展望

———本学では地域学ゼミナールや学部越境型地域志向科目のような、課題解決型学修を授業に積極的に取り入れていく予定ですが、課題解決型学修を実施するにあたって、米田さんのような地域社会のリーダーを外部講師として大学に招き、大学教員と協働して教育に取り組んでいこうと考えています。米田さんのお立場から、課題解決型学修を共にする本学教員や学生に期待したいことはありませんか。

米田大吉

米田:学生に求めたいこととしては、「大人の言うことを簡単に鵜呑みにしてはならない」ということです。例えば企業からやってきた外部講師が「うちの課題はAである」と言ったとします。この発言には真摯に向き合う必要があります。しかし発言をそのまま鵜呑みにするようでは問題があります。大人にとっては建前上の発言もあり、社会上の見栄もあります。まだ本当の課題を話していないかもしれません。「本当に課題はAなのか」を批判的な視点ももって判断しなくてはならない。複雑な課題にアプローチするためには、結論を安易に決めつけてはダメです。先人の言葉に耳を傾けるということと、先人の言うとおりに唯々諾々と過ごしていくことは違います。

 今や終身雇用の時代は終わりました。これはすなわち「企業が社員の一生の面倒を見てくれる時代が終わった」ということです。自分の人生に自分で責任を持つ時代が来たというわけです。学生たちはこの困難な時代を生き抜いていかなければならないわけですから、外部講師の意見の建前の面だけを鵜呑みにするようでは先行き不安です。

 教員には「徹底的に学生の学びに集中して欲しい」と思います。地域の企業や行政、NPOと連携するからと言って、彼らのゴキゲンを取る必要はありません。外部講師は学生の学びのために授業に来ているわけです。もちろん彼らも、そのことはよくわかっていますが、やはり教育の専門家ではありませんから、ついつい学生にキツく当たったり、自分の立場を優先したり、授業の設計等を忘れてしまうこともあります。そんな時には、教員は学生の学びという観点から授業を軌道修正する必要もあるでしょう。外部講師に気を遣ってばかりではいけません。

 ただし、「徹底的に学生の学びに集中して欲しい」ということは、「学生を過保護に扱え」という意味ではありません。むしろ学生を社会の荒波に放り出して、そこでたくさんの失敗を経験させて欲しいと思っています。極端に言えば、授業前に、学生に懇切丁寧に授業の目標や狙い、内容などを説明する必要はないと思います。むしろ学生が失敗して、トラブルが起きたときにこそ、そっとサポートして欲しいと思います。そうやってたくさんの失敗をしながらも、学生が半年かけて頑張って、最後に成功した経験をつませてあげて欲しいと思います。この「やり遂げる」という経験は、学生の社会に出てからの育ちにとって、非常に重要です。

5.やわな成功体験は要らない

———米田さんの話を聞いていると、成功にも良い成功と悪い成功があるような気がしてきます。

米田:成功は確かに大事です。学生時代に成功を積むことも良いことでしょう。しかし学生の時の成功経験に固執するようでは困ります。受験勉強にそれなりに成功して、大学生活を真面目に過ごして、更に就活マニュアルもしっかり読み込んで失敗がないように振る舞う。この真面目さは素晴らしいと思います。しかしこれからの時代、真面目なだけでは希望の職を勝ちとることは難しいでしょう。プラスアルファが必要になります。

米田大吉

 例えばここに2人の学生がいるとします。一人はコツコツと単位を取り、就活マニュアルもしっかり読み込むような真面目な学生です。もう1人は授業もそこそこに、地域の様々なイベントに参加し、そこでたくさんの失敗をしながらも、いくつかの成功体験も味わうことが出来たとします。企業が就活の場面で欲しい人材はどっちか。現在の企業にとっては、答えは後者になりがちです。安全運転重視の学生より、たくさんの失敗を乗り越えた経験を持つ「いわゆる社会人基礎力を身につけた」学生が有利になりがちなのです。

 随分前になりますが、ジョブカフェをやっていた頃、青森県内の、とある銀行にお勤めの支店長代理と話をする機会がありました。彼は弘前市内の進学校を卒業後、弘前大学に進学し、県内の銀行マンになりました。これは青森県の文脈で言えば、勝ち組です。でも彼は「私を含め、そういうキャリアだけでは限界がある」と言っていました。

 その時はよくわからなかったんですが、今ならなんとなく想像がつきます。おそらく彼は自分の殻を破ることが苦手で、そのことに悩んでいたんでしょう。失敗を恐れる気持ちから逃れられなかったとも言える。彼はそのことに自分で気づくことが出来た。これは素晴らしい学びです。学生には彼の言葉から色んなことを学び取ってほしい。

 弘前大学が取り組もうとしている地域志向教育もそのための手立として実施されなければならないと思います。弘前大学の学生には真面目にコツコツと頑張る学生がたくさんいます。それは素晴らしいことです。この資質を土台として、更に社会の荒波を乗り越えていけるような力強さを身につける必要があります。そのために学生を地域社会に連れだして、そこで早い段階から生の地域課題に触れる機会を持って欲しい、そこで多くのことを学んで欲しいとの願いが、地域志向教育の背後にあると思います。

 ここで言えることは、「やわな成功体験は要らない」ということです。例えば大学受験に成功すると言うのは、やわな成功体験の典型例です。成功それ自体は悪くない。しかし大学に合格した程度で、これからの人生が保障されたような自信を持つようでは先が思いやられるのです。その成功を消化した上で、更なる大きな成功に向けて様々なチャレンジを続けなくてはなりません。やわな成功体験は不要です。大いに失敗し、大いに学べと学生に伝えたいです。

(文中敬称略)
(聞き手・編集:COC推進室 西村君平)

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