他領域の専門家との協働とは 【2】

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COI研究推進機構 戦略統括 村下公一先生に聞く
村下公一

村下 公一

弘前大学 医学研究科 COI研究推進機構 教授
弘前大学 研究・イノベーション推進機構 機構長

専 門 産業政策
研究テーマ ライフイノベーション、産学連携、ベンチャー創出
授 業 社会と医療、ライフイノベーション戦略など

他領域の専門家との協働【ルーブリックより】

  • 自分と異なる領域の知識や技能、考え方を理解して尊重し、柔軟に協働できる

3.岩木スタディの学際性

———サブプロジェクトを題材に、他領域の専門家との協働の実際の様子をお話いただけますか。

村下公一

村下:「ビッグデータを用いた疾病予防法の開発」は、学部生にもわかりやすいかも知れません。このサブプロジェクトでは,COI以前から進めてきた「岩木健康増進プロジェクト」(岩木スタディ)をベースにしています。岩木スタディは、平成17年度から弘前市の岩木地区において、短命県返上を目的に進めてきたものです。

 岩木スタディでは600項目に渡る健康診断を行い、頭からつま先までカバーする包括的なデータを取ります。この中には、DNA測定もあれば、生活習慣に関する問診(聞き取り)も含まれます。

 岩木スタディによって分野の垣根を越えた多因子的解析を可能にする網羅的なデータベースが構築されます。DNAは分子生物学的なデータです。医学的な診断によって明らかになる性別や血圧、体力、肥満度、共生細菌等は、生理・生化学データです。このあたりは、いわゆる自然科学に属するデータと言えます。岩木スタディでは、さらに個人の生活行動に関する様々なデータ、例えば就寝時間や会話の頻度、食習慣、趣味、ストレス、労働環境、経済力、学歴といった人文学的・社会科学的なデータまでとっています。岩木スタディは、学際的な研究開発プロジェクトの典型例と言えるでしょう。

4.新しい知識や価値を生み出すよろこび

———岩木スタディの学際性と先見性には驚かされます。その一方で、これほどの大規模な研究を学際的に進めていくとなると、「先生方の苦労も少なくないのではないか」と心配な気持ちにもなります。

村下公一

村下:他領域の専門家たちと協働することは大変なことです。しかし、分野を越えた協働の中でイノベーションやブレイクスルーを体験できます。この体験はどんな苦労も吹き飛ばすほどの大きな喜びをもたらすものです。

 例えば、医学部教員はそもそも非常に多忙です。ここにCOIの仕事が追加されるわけですから、その多忙ぶりは大変な水準に達するであろうことは想像に難くありません。しかしそれでも本学の医学部教員が数多くCOIに参加してくれています。彼らの仕事ぶりからは「国の行く末にも影響を及ぼすようなビッグプロジェクトに携わっている」という誇りが感じ取れます。学科の垣根、学部の垣根、大学と企業の垣根を超えて働くことで、研究者としても知的な刺激を受けているでしょう。人々の健康に貢献できている実感も、大きな楽しみとなっているようです。

5.イノベーションの現場を肌で感じる

———COCの担当教員として言えば、本学がCOIにも採択されているということは大きなメリットがあると思います。なぜなら、COIのおかげで、本学教員が組織の様々な垣根を超えて高度な専門知の創造や社会的の創出に取り組み、その成果が弘前市や青森県、日本、そして世界を変えていく様子を間近で見ることができるからです。先生方の姿から、学生は非常にリアリティのある形で、他分野の専門家との協働とは何なのか、深く学ぶことができると思います。

村下公一

村下:他分野の専門家との協働のあり方を学ぶためには、やはり体験が重要だと思います。学生のうちから様々な機会を捉えて、多くの人びとと交流して欲しいと思います。様々な分野の専門家が協働している現場に、勇気を出して参加してみて欲しいですね。そこでイノベーションの現場を肌で感じることは、とても大きな意義があると思います。「私は◯◯学部だから、これは関係ない」といった先入観はすぐに捨てて欲しいと思います。

 また、他分野の専門家との協働のあり方についてのヒントを得るためのおすすめの本として、P.ドラッカーの『イノベーションと企業家精神』を学生に紹介したいです。この本の初版が出版されたのは1985年ですが、その中身はほとんど色あせていません。現代の学生が読んでも様々な新鮮な驚きを味わうことができると思います。「時代が変わっても物事の本質は変わらない」ということを教えてくれる本でもあります。

(文中敬称略)
(聞き手・編集:COC推進室 西村君平)

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