地域課題へ専門知を活用する力とはなにか 【1】

農学生命科学部 食料資源学科 食料バイオテクノロジーコース 石川隆二先生に聞く
石川隆二

石川 隆二

弘前大学 農学生命科学部 食料資源学科 教授

専 門 植物遺伝学、植物育種学
研究テーマ DNA考古学、植物遺伝資源、イネ起源、有用植物
授 業 環境と資源、植物育種学
育種・ゲノム学実験、統計学の基礎など

地域課題へ専門知を活用する力【ルーブリックより】

  • 体系的な専門知を活用し、実効性のある地域課題分析と解決策提案を行える

1.専門教育の概要

———石川先生のご専門について、研究と教育の双方の側面からご説明いただけますか。

石川隆二

石川:野生の稲の遺伝子を解析し、美味しくて育てやすい稲のあり方を探求したり、沖縄のシークワーサーのような日本在来柑橘についての研究も行っています。端的に言えば、稲や柑橘の栽培化に関する実証的な研究ということになります。学問分野で言えば、農学、特に植物育種学にあたる研究です。植物育種学では、植物の遺伝的な改良に関する理論や技術を扱います。
 専門教育として担当している授業は、植物育種学(Ⅰ・Ⅱ)や育種・ゲノム学実験などがあります。専門教育の道は講義から始まります。文献をしっかり読み込んで、人類はこれまでに作物をどのように変えてきたのか、そしてこれからどのように変えていくのか、しっかりと理解することが、まず重要です。

2.地域課題への専門知の活用

———植物育種学は、我々の生活の根幹をなす「食」に関わる学問のようです。植物育種学を学んでいけば、自然と、専門知の地域課題への活用というテーマが浮上してくるのではないでしょうか。

石川:確かに、卒業論文執筆等の場面で、学生が青森の課題に目を向けることは少なくありません。例えば、青森県では稲の胴割れ対策が重要な課題となっていますが、我々の研究室では「稲の胴割れ対策として、青森の稲の遺伝子を解析し、胴割れに強い遺伝子を持った新品種を作り出す」といった研究を行ってきました。

 しかし、ここで「今まで学んできたことを地域課題の解決に向けて活用するとは一体どういうことなのか」とが論点になります。今まで学んできたことを地域課題の解決に向けて活用したいという気持ちは非常に重要です。しかし拙速な応用は避けなければなりません。「地域課題の解決」と言ってもそれは決して簡単なことではないからです。

石川隆二

 例えば「稲の胴割れ対策」というシンプルな課題であっても、これまでの胴割れ対策の成功や失敗の経緯がありますので、まずそれを理解しなければなりません。また遺伝子的な解析についても、一朝一夕で行えるような簡単な技術ではありません。更に、遺伝子的な品種改良の結果についても、十分に配慮しなければならない。生産高が落ちるかも知れないし、生態系等に影響がでるかも知れない。

 このように、現実の課題と言うのは、表面的にはシンプルな課題に見えたとしても、その裏側に複雑な広がりを持っています。その複雑な広がりをしっかりと理解し読み解こうとするだけでも、かなり高度な専門性を求められます。

 よって、学部段階では地域課題をしっかりと理解し、地域課題への専門知の活用の第一歩を刻むといった程度に留まらざるを得ないと思います。そして大学院段階では、専門知を活用して解決に取り組んでいくことになります。

3.総合力のある人財の育成

石川:更に言えば、地域課題への専門知の活用のあり方にも、質があるという点も忘れてはなりません。単なるお手伝いに終わる場合もあれば、地域課題の解決を主導するに至る場合もあります。我々が目指しているのは、もちろん後者ですが、地域課題の解決を主導できる人財となると、これは非常に高度な専門性を必要とするのみならず、総合力が求められることになります。

 例えば農業の六次産業化を行うためには、単に農業の事だけをわかっているだけではダメです。作物のことがわかっている人財、研究開発がわかっている人財、マーケティングがわかっている人財等が協力することが必要になってきます。一つの分野だけでは限界があります。

———COCでも学際的な視野を持った人財の育成を重視しています。この点について、石川先生のお考えを聞かせていただけないでしょうか。

石川隆二

石川:やはり大学教員が学際的な視野を持っていることが大前提になるでしょう。私自身「稲作と中国文明—総合稲作文明学の新構築」という学際研究にも取り組んでいます。ここでは考古学、民俗学、農学と様々な学問の壁を越えて研究を進めることになりますが、やはり非常に良い刺激を受けます。

 このような大学教員の後ろ姿を学生に見せてあげる。可能であれば研究に学生を参画させて、様々な分野の研究者と出会わせてあげる。こうした過程を通して、徐々に学生は学際的な視野を養っていくことになるでしょう。

 もちろん、学生が学際的な研究に携わるためには、学生自身が教養教育や専門教育をしっかりと積み上げていくことが重要です。

次ページへ続く)

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